料理人と鍼灸師。
- 元英 白
- 5月3日
- 読了時間: 3分
NETFLIXの「白と黒のスプーン:料理階級戦争」という料理サバイバル番組が最近大ブレイクしています。実力はあるが無名の80人の「黒さじ」料理人たちが、料理の世界で成功を収めた韓国最高の20人の「白さじ」料理人たちに挑戦状を突きつけ、さまざまな料理対決を繰り広げながら勝敗を競うサバイバル番組です。
料理番組にもサバイバル番組にもそれほど興味がなかった私ですが、この番組にはずいぶん引き込まれました。
それはまずこの番組がものすごくよく作られているということです。
番組の企画構成と編集すべてが新鮮ですばらしかったです。サバイバル番組特有の緊張感はありますが、毒舌な雰囲気はなく、先輩シェフに敬意を払い、後輩を応援するという温かい雰囲気がありました。
また番組が進むにつれ個々の料理人の個性や人生ストーリが見えてきて時には深い感動を与えてくれました。
さらに私を魅了させたのは鍼灸師としてこの番組を見ているとそこの料理人の世界から鍼灸師の世界が重なって見えてきたからでした。
直観的に見ると料理人が使う道具は包丁と火、鍼灸師は鍼とモグサ(火)。
言わば金と火を操る感覚と技術の世界です。
技術向上のために努力し、感性を高めるために良いもを見たり、自然に触れたりするのは同じと思います。
審査人は「この料理の意図は何だったのか」「自分が意図した結果となったのか」と問います。
鍼灸師も「なぜそのような症立てをしたのか」「なぜそのツボを選んだのか」「思ったどおりの結果になったのか」とよく問われます。
料理人は味を見て「味のバランスはよいのか」を判断し、必要であれば再調整をしますが、鍼灸師は脈を診て「心身のバランスが整えられたのか」を確認しながら鍼灸の加減を調整します。
レストランの売り上げを戦うチーム戦では自営業としての苦労に共感しました。レストランと同じく鍼灸も自営業ですから。
また料理も鍼灸も師匠と弟子の関係性があります。
白黒料理人では料理学校に行けず師匠も持たずに、独学で苦労しながら料理の勉強をして成功した黒スさじ料理人も登場しますが、自分がお手本にしていた料理本の著者である白さじ料理人を目の前にして、目をキラキラにして敬意を払う場面があります。
鍼灸師も夏期大学や講演会でいつもお手本にしている本を持っていて大先生にサインを戴くということもよくあることです。
白黒料理人で印象的な場面の一つに40人の料理人が同じ舞台で同時に料理するコーナーがあります。それぞれのキッチン台で自分の得意料理を作るのですが、このような場面を経絡治療学会の夏季大学に行くと見ることができます。
夏期大学の3日のプログラムの最終セッションは数十人の全国の名高い鍼灸師たちが一つの空間でそれぞれの施術ベッドを広げ施術を披露するという大舞台です。
それぞれのベッドの周りには全国の一般鍼灸師たち(黒さじ)が大先輩たち(白さじ)の施術をのめりこむように見ているのです。
料理も鍼灸も基本的に孤独な作業だと思います。作業するのも結果をだすのも評価されるのも一人の責任になります。
番組は終わりましたが、心に残るのは数々の料理と共にその背景にある人々の人生物語です。一つの料理には物語があります。時間かけて作った料理も一瞬で食べ終わり、なくなってしまいますが、その行為は記憶として、経験として、最終的には物語として私たちのこころに残ります。
良い料理と良い鍼灸は同じです。
自分の鍼灸施術がこれからもご縁のある方々にとってほっこりする体験、温かい記憶として残り、よい物語の一部になれるようより繊細に努めたいと思います。
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