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九州旅その三 〜ハラノムシの話の続き&第39回経絡治療学会九州学術大会〜

  • 執筆者の写真: 元英 白
    元英 白
  • 5月24日
  • 読了時間: 4分

前回の「ハラノムシ」の話、いかがでしたでしょうか。

昔の人が病気をどこか愛らしいモンスターのような姿に描いていたことは、とても興味深かったですね。彼らは、病気という“退治すべき悪”を、どこか親しみのある存在として受け入れようとしていたのかもしれません。

そもそも、病気と健康の間に、はっきりとした境界線はあるのでしょうか。

私たちの体内には、常在菌や異常細胞、そして病の前段階にあるようなさまざまな“生き物”たちが共存しています。体調が崩れると、それらが活性化し、やがて病気として現れてくるのです。つまり、私たちは常に「病と健康のスペクトラム」の中を行き来しているのではないでしょうか。

そう考えると、昔の人が「病」を単に排除すべき敵とせず、「ハラの中に棲みついているムシ」として捉えていたのは、実に理にかなっているように感じられます。だからこそ、私たち私たちは日々、自分の身体と心の声に耳を澄まし、ムシたちが暴れないように手をかける──それが未病ケア”であり、東洋医学の知恵であると思います。

さて、前置きが少し長くなってしまいましたが、ここからは第39回 経絡治療学会九州学術大会のご報告です。

九州国立博物館をあとにして、会場のある福岡市内へ。電車で約30分ほどの移動でした。博物館に立ち寄ったため、会場には少々遅れての参加となりました。

今回の学術大会のテーマは、

「経絡治療の診断と治療 ~六部定位脈診の捉え方~」。

各先生方のご発表はどれも興味深く、臨床のヒントが満載でした。

まず、今野弘務先生による調査報告では、肺虚肝実証の患者さんを「肝虚寒証」として治療し、主訴が改善されたという症例が紹介されました。

気滞や瘀血の症状が見られる肺虚肝実証に対して、肝と陽気を補うことで気血の流れが改善されるというアプローチは、非常に参考になるものでした。

特に肝実の症状がそれほど強くない場合や、寒証が絡むケースにおいては、実践的な治療方針として応用できそうです。

この治療法は、後の池田先生の実技にも裏づけられており、気の停滞が見られる肺虚肝実証の患者に対し、「肝虚陽虚証」としての治療が行われていました。

また、木下先生からは、「HSP(Highly Sensitive Person)」と肝虚証との関係についての発表がありました。繊細な感受性を持つHSP気質の方々と、肝虚証の体質との関連性は、臨床現場でもよく実感されるところであり、今回のご発表を通じてそのつながりを改めて考える良い機会となりました。

さらに、さまざまな先生方による症例報告や講演も印象に残りました。今野正弘先生からは腰痛に関する治療について、菊一先生からはステロイド皮膚症の症例、阿江先生からは筋力低下を伴う腰痛患者の治療についての報告がありました。また、内科医である川元先生からは、初期診断における西洋医学的視点と、実際の現場における課題についてのお話がありました。加えて、和辻先生の講演では、経絡治療のデータ収集の重要性と、日本鍼灸の今後の発展について考えさせられる内容でした。

そして、馬場道敬先生と池田政一先生による講演と実技。お二人の長年にわたる臨床経験から導き出された治療スタイルは、非常にシンプル。だけどその“シンプルさ”を成立させるには、人間と病気に対する深い理解と誠意ある医術の実践の積み重ねがあったのだと感じました。

技術そのものというより、お二人の“存在”から学ぶことが多くありました。その姿はまるで“チャーミングな山人”のようで、柔らかさと奥深さを併せ持つ魅力にあふれていました。

学会の締めくくりには、小泉先生、橋本先生、山口先生によるシンポジウム「六部定位脈診の現在」が開催されました。師匠筋の違いによって、脈診の捉え方や証の立て方、選穴の方法などに個性が現れていたのがとても印象的でした。

とはいえ、四診によって得られた情報から経絡の虚実を判断し、五行に基づいて補瀉するという全体の流れには共通点があり、伝統的な技術がしっかりと受け継がれていることを感じさせられました。

前回の京都学術大会に続き、

「どう受け継ぎ、どう自分のものにしていくか」という問いは、今後も私の中で続いていくでしょう。

その道のりを、焦らず、楽しみながら歩んでいきたいと思います。

次回は、九州旅の最後の編です。いよいよ別府そして大分へ向かいます。

素敵なご縁の物語が続いていきますので、どうぞお楽しみに。

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